こども心身だより
                                                第114号‐ 平成23年12月発行


巻頭言

 「光陰矢のごとし」としばしば言われるように、1年はあっと言う間で、今年も残りわずかになりました。ロシアの作曲家・プロコフィエフに、あまり知られていない「束の間の幻影」という、はかなさとむなしさを感じさせる、誠に人生の短い幻影を巧みに描いた曲があります。長いと思われる人生でさえ、束の間の幻影である以上、1年がアッと言う間は当然だと、暮れになると、毎年痛感していますが、それぞれは束の間の幻影でも、それが寄り集まると着実な歩みや歴史になるのも事実です。私たちの活動も手前味噌ながら、多少はそのようなものと自負しており、34年前に産声をあげた定例学術研究会や、それから派生した宿泊セミナーは、確かな歩みを印していると思います。
 この宿泊セミナーを、今年は先月5〜6日に大阪南港で開催しました。21年前、瀬戸内海の離島で始めた時は、二泊三日の日程でしたが、一泊二日の都心開催では、当然のことながら、性格も変わりました。しかし、参加しやすい面もあり、今年は90名近くの方々にお集まりいただき青木省三先生(川崎医大 精神科教授)の、実際の講演でなければ味わえない「奥深い精神科医の臨床を傍でみている思いをもたせる」名講義に酔いました。終了時に行ったアンケートでも、特に良い45.3%、良い46.8%で、合計92.1%の高い評価を頂きました。この21年間にわたりいつも8〜9割の方々から好意的評価を頂きますが、今年は特に高い評価で、企画・運営した者として、私たちも非常に嬉しく感じました。初めて地元の大阪での開催になったいきさつには色々の事情があり、ここにも時代の移り変わりを感じさせます。
 この宿泊セミナーを企画した頃は、学校で問題意識を先駆的にもたれた教師の参加が多くありました。これが主な対象者である小児科医にとっても刺激的で、双方が「子どもをみる立場」で、職域の違いと共通点を意識し、お互いに仲間としての交歓する二夜が、講演の内容以上に得難い経験と、好意的に迎えられたのです。時が移り、発達障害を中心に問題が学校で噴出するにつれ、学校で講習会がしばしば行われるようになりました。それにつれ、教師の参加が減少していき、初期から継続して参加してくださる小児科医からは、職域を超えた交歓を懐かしむ声が多く聞かれます。子どもをみる立場の教師、小児科医、心理士・相談員などが、隔離された離島で「同じ釜の飯を食って」意見の交換と、お互いの交歓を深める会を企画実行できたことを嬉しく感じていたのですが、時が流れ、形態を変更せざるを得ない状況になったのです。これも世の常で、ここにもある種の幻影を感じます。
 さて、この宿泊セミナーの元になった定例学術集会が、現在は年間9回の開催で、昭和52年(1977)に産声を挙げて、来年6月に300回を迎えます。わが国で子どもの心身医学の研究会で、300回を数える会は過去にまったくなく、というより、線香花火のように数回の開催で消えるものがほとんどで、私たちは実に35年をたゆまなく開催し続けた歴史を誇りに思っています。これは参加くださる方々と、薄謝にも関わらず快く講演をお引き受けいただいた講師の方々のおかげで、ここに改めてお礼申し上げます。なお、来年の300回記念集会については、次のご案内がありますので、どうか、皆様ご参加くださるようにお願いいたします。(冨田)


4回こども心身セミナー〈第300回定例学術研究会記念講演会〉

「第4回こども心身セミナー」は「第300回定例学術研究会記念講演会」として開催します!

 巻頭言でも紹介したように、来年6月に学術集会は300回を迎えることになります。また、こども心身医療研究所の活動も、準備委員会を立ち上げた年から数えると30年が経ちます。
 この記念すべき年に「カリヨンセミナー」から続く「こども心身セミナー」を「定例学術研究会300回記念講演会」として、一人でも多くの方々にご聴講いただけるような形で開催します。
 客員講師には霊長類の研究から、ヒトの子どもの成長・発達に関して、ユニークな視点から興味深い論を出されている正高信男先生(京都大学霊長類研究所 教授)をお迎えします。
 お知り合いの方をお誘いの上、奮ってご参加ください。

【開催要項】

日時;平成2469日(土曜日) 午後1時〜530
会場;大阪国際会議場(1003号室 10階)
 プログラム 1:002:20 「不安の進化と発達障害」正高信男(京大霊長類研究所 教授)
         2:304:00 「生態学的心身医学」冨田和巳(当会 理事長)
         4:105:30 「発達障害の支援」正高信男      (敬称略)

 長年の開催にご協力くださった方々に感謝の気持ちを込めて、参加費は無料です
    事前申し込みも不要です。なお、今回のセミナーは宿泊形式ではありません


平成24年度定例学術研究会(第1報)

平成24 年間テーマ: 発達障害再考〜各疾患・問題行動との関連で〜』

 最近の子どもの心因性疾患や問題行動の理解に欠かせない発達的特徴の視点ですが、これにとらわれ過ぎるのも、子どもの状態像を見誤ると危惧されます。そこで、今年は各疾患・問題と発達障害を関連付けて、長年臨床をして来られた先生方に、各疾患の変遷、発達的特徴の関与による状態像、治療や対応の違いについて、事例を通して講義していただく予定です。
 講師には、高石公資先生(高石心理臨床活動舎)、田中究先生(神戸大学大学院医学系研究科)上野千穂先生(関西医科大学精神神経科)ほか各領域の第一線でご活躍の先生方をお迎えします。
 皆様のご参加をお待ちしております。

参加対象:医療・教育・福祉・心理など子どもに関わる専門職、大学院生の方
  場: YFC会館 関西カウンセリングセンター 4F講堂
                (最寄駅:JR東西線「大阪天満宮」,大阪市営地下鉄「南森町」)
開催日時:2月〜11月の第2金曜日19:00〜21:00
◎年
費:10,000円(計9回分)
          今年度より通年会員として登録いただいた方のみご参加いただけます
      (単回参加はなくなりました)

日本小児科学会認定医(専門医)点数;1回につき3点取得
     ご参加の都度「出席証明書」をお渡しします。


<第293回印象記>
 今年の学術集会の年間主題「発達障害児の二次障害を防ぐために」は、私たちの研究所の基本的姿勢であり、今月は当研究所の仲野が、思春期前の自閉症スペクトラムを取り上げ、小児科医として何ができるか、何をするべきか、そして実際にどんなことをしているのかを、話しました。
 発達障害児が“障害である”所以は、外に現れる困った症状・異常な出力の仕方ではなく、根本的な情報の入力過程に問題があるという点にあります。すなわち、周囲の状況の本質的な意味が理解できず、何が重要で注目すべきかが分からないために、着目点がずれ、自分の気になることにだけ注目し、そこに、知覚異常も加わって、結果的に不適切な反応が起こってしまうのです。従って必要な対応は、彼らの入力の歪みを適切に見立て、どのようにすれば正しい情報が入るかを検討し、指導していくことです。また彼らはストレスに対し脆弱なため、状況反応性にさまざまな二次障害をきたしやすく、その時々に応じて適切な対処も必要となります。これに対する薬物治療として、症例に即し向精神薬、抗うつ剤、感情調整薬、AD/HD治療薬を、どのように微調整して使っていくかを紹介しました。(YY

<第294回印象記>
 今年最後の定例学術集会は、成人の患者さんの経験談をお聞きしました。ちなみに、293回を数える本会で患者さんの講演は初めてです。幼少の頃から不適応感に悩みつつ学生時代を過ごし、社会に出て対人関係のつまずきから「うつ」になり思わしくないまま、数年前に当所で「アスペルガー症候群」と診断された方です。それからの障害受容・精神的立ち治りへの道程を当事者の立場から話して下さいました。
 「発達障害」という名称と、それを「治す」「変える」と言う表現について、彼女は「『パンダ』を『熊』に変えることはできないし、治すべきものでもないのと同じように、現在『発達障害』と表現される状態も『正常』と言われる状態に戻すようなものではない。『障害』と言うよりただ『感性が違う』だけなのであって、そこに優劣関係はないのに、一般には『正常』という状態に主体が置かれ、もともと異質なものを変えようとするから無理が生じ、しんどくなる。『普通じゃない、間違っている』でなく『違っているだけと理解してほしい。『間違っている』と言い続けられることで、劣等感にさいなまれ、自分への信頼感を失っていく」と訴えられました。
 本人の持つ小さな才能を上手に組み合わせる手助けをすること、不得意なことの克服に執着せず、些細なようでも、当事者には大きな障壁となる道は避け、方法にこだわらず、個々のやり方で結果さえ出せればよしとすること、無理な環境に適応させるのではなく生きやすい世界を見つけること、など当事者が私たち専門家に期待する支援でした。これはあらゆる治療に普遍化できると感じると共に、「障害」という視点ではなく、みんながお互いの個性を尊重し合うということが、より大切なのだと思いました。(Y.Y.


ご寄付をいただいた方々(平成23年9月〜11月)

明治製菓ファルマ株式会社様 田辺三菱製薬株式会社様
関西学院中・高等部様 田中玲子様 大阪女学院中・高等学校様
グラクソ・スミスクライン株式会社様 株式会社ツムラ様
日本イーライリリー株式会社様 名張市立梅が丘小学校様 (順不同)
                                          他 若干名様

ご寄付振込先 ◆郵便振替 000930-6-98381
          ◆銀行振込 三井住友銀行 大阪本店営業部 普通 3180573
             りそな銀行  堂島支店    普通 
2310713

私たち社団法人では多くの方々のご理解やご協力に支えられて活動を続けております。
これからもよろしくお願い申し上げます。