「そーでしょ?此所、あたしのお気に入りなのよねぇ」
「それにしても、あなたがお昼奢ってくれるなんて・・・何かあったの?」
「ふふ・・・ちょっち臨時収入があってね」
「ふーん・・・ま、ごちそう様でした」
「じゃ、あたし、お会計済ませてくるわね」
「親子丼がお一つ、中華丼がお一つ、ビールが・・・7本・・・全部で、4000円に為ります」
真っ昼間から、ビールを7本も飲んでいる目の前の女性に、動じない店員さん。
どうやら、毎度の事で慣れてしまっているようです。
「はいはーい、4000円ね!・・・お財布、お財布・・・・・・・あれ?」
「どうかなさいましたか?」
「な、何でもないのよ・・・何処いったのかしら・・・」
ミサトさんはバックの中を必死に掻き回しています。
「おっかしいわねぇ・・・加持君の西瓜を売り払ってパンパンになった私の財布ちゃぁん・・・」
ですが、お目当てのものは出てこないようです。
「無いわねぇ・・・」
「あの、お客様?」
「へ?ああ!あの・・・ちょっち席に戻って、お茶でも飲もうかしらぁ・・・いいわよね!」
「は、はあ・・・構いませんが」
顔を引き攣らせている店員さんを残して、ミサトさんが早足で席に戻って来ました。
「あら、支払いは終わったの?」
「うーんとねぇ、ちょーっち、問題が発生したのよ」
「問題?何があったの?」
「えっと・・・お財布が無いのよ・・・ごめんリツコ!お金貸して!!」
「・・・嫌よ」
リツコと呼ばれた金髪の女性は、ミサトさんの頼みをすげなく断りました。
「嫌って・・・払わなきゃ帰れないわけだし・・・」
「それでも嫌よ」
「ちゃんと、帰ったら返すわよ」
「嫌!嫌!嫌!」
手をドラえもん握りにしてぶんぶん振り回し、必死に拒否するリツコさん。
似非金髪の30歳女性がやると、結構不気味です。
「お、落ち着いてリツコ!もう借りないから!」
「そう・・・やっと判ったようね」
借りないと聴いて、あっという間に元の”天才科学者風”に戻ったリツコさん。
ミサトさんは、その場から逃げ出すように電話の前に行きました。
家に居るであろうシンジ君と連絡を採る為です。
その頃葛城家では、アスカちゃんとシンジ君が、リビングの床に寄り添うように座っていました。
ミサトさんが居ない時は、いつもこうして仲睦まじくしているようです。
「ねぇシンジぃ〜♪」
「なに、アスカ?」
「ん〜・・・あったかいね・・・」
「・・・そうだね、今日は天気も良いしね」
「そんな事じゃないわよぉ・・・シンジがあったかいの」
「僕が?・・・僕よりアスカの方があったかいよ」
「シンジのあったかさが伝わってるからかな?」
「アスカ・・・」
手と手を重ね合わせ、見詰め合う2人。
しかし、無情にも電話のベルの音が、部屋に響き渡ります。
「・・・電話だ、ちょっと待っててね」
「えっー!そんなのほっときなさいよぉ・・・」
「駄目だよ、何か緊急の連絡かもしれないじゃないか」
「そんな電話掛かってくる訳無いじゃん!さ、シンジ・・・続きしよ♪」
「続きって・・・ま、良いか♪」
こうして、2人は電話の事を忘れ、自分達の世界に沈み込んでいきました。
「あれ?おかしいわねぇ・・・2人共、まだ帰ってないのかしら?」
自分の掛けた電話が無視されているとは知らないミサトさんは、首をひねるばかり。
結局、諦めて自分の席に戻って来ました。
「ミサト!」
「な、なによリツコ・・・」
「まだ帰れないの?」
「まだって・・・仕方ないでしょ!それに、早く帰りたいんだったら、お金貸してくれれば良いのに・・・」
「それは嫌だって言ってるでしょ?」
「何でそんなに嫌がるのよ?」
「言えないわ・・・あなたであってもね」
少し俯き加減になり、沈んだ声で語るリツコさん。
何か重大な訳が在る、と思ったミサトさんは、取り敢えずその事について追求する事を止めました。
それより、此所の支払いの方が大事だと考えたようです。
「仕方が無い・・・日向君達に来てもらいましょうか」
「そうね・・・マヤならすぐ持って来てくれるわ」
「じゃ、電話してくるわ」
ミサトさんは、お店の電話から日向君の携帯電話に電話を掛けました。
「んー・・・あっ!日向君?あのね・・・」
「はーい!ネルフ一の色男、日向マコトでぇす!今、お休み中、つまり寝てるんだよ♪何か用件のあるかピー」
どうやら留守番電話のようですが、留守電のメッセージが入りきらなかったようです。
「・・・なによこれ・・・」
次に、青葉君の携帯電話に掛けるミサトさん。
「今度は大丈夫よね・・・あっ!青葉くん?あの・・・」
「うをぉ〜!!俺は今、武道館でライブ中だ!用事があるなら、マネージャーか、この後に吹き込んでくれ!ピー」
「・・・」
無言で電話を切るミサトさん。
最後に、マヤちょむに電話を掛けてみます。
「初めっから、マヤにしとけば良かったのよね・・・もしもし、葛城だけど?」
「はい、なんでしょう?」
「あのね、ちょっち頼みたい事があるのよ・・・○○ってお店にお金持って来てくれない?」
「はい」
「悪いわねぇ、あとで必ず返すから」
「はい・・・ところで・・・」
「ん、なぁに?」
「私、今出かけているんです、発信音の後にメッセージをどうぞ・・・ピー」
呆然としているミサトさん。
しばらくして、受話器を叩き付け、電話を切りました。
「たくっ!なんなのよ、あの三人は!!」
席に戻って来たミサトさんを見て、リツコさんが言いました。
「どうだった?すぐ来るって?」
「三人とも居なかったわ・・・」
「どうするのよ・・・あ!そうか」
「な、なに?何か良いアイディアでも浮かんだの?」
「あたしは関係無いんだから、先に帰るわね、それじゃ」
そう言うとリツコさんはさっさと帰ろうとしました。
が、そこで簡単に返してしまうミサトさんではありません。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あたし一人にする気なの?」
「あなたが奢るって言い出したんでしょ?だから、私は関係無いわ」
「そ、そんな事言ったって・・・ねえ、やっぱりお金貸してよ」
「嫌だって言ってるでしょ!しつこいわよ、ミサト」
「そんな事言わないでよ!」
「ちょっと、止めてよ!」
ミサトさんは、無理やりリツコさんの鞄を引っ手繰ると、中から財布を勝手に出してしまいました。
「結構入ってんじゃないの・・・あら?なにこれ?」
「わ、私じゃないのよ!勝手に入ってたのよ!」
リツコさんの財布には、『100億円札』が入っていました。
『100億円札』つまり、子供銀行券、玩具のお金が入っていたのです。
しかも、普通の日本銀行券は無く、全部、玩具のお金でした。
「リツコ・・・何でこんなもんを・・・」
「し、知らないわよ!陰謀よ!そうに決まってるわ!」
持っていた事を必死に否定しているリツコさん。
碇司令との『おままごと』で使っていたなどと言える筈もありません。
「これじゃ・・・見せたくないのも判るわ・・・」
「MIB・・・そうよ!きっとNASAやCIAの陰謀なのよ!」
呆れ返ってしまっているミサトさん。
まだ、言い逃れをしているリツコさん。
そんな2人の背後から、声が掛かりました。
「あの・・・葛城参佐でいらっしゃいますか?」
”バッ!”という擬音と共に振り替える2人。
声を掛けた方はちょっとビビッています。
「あら・・・あなたは・・・相田君だっけ?」
「はい!相田ケンスケであります!」
ケンスケ君は胸を張り、堂々としました。
その姿を見て、何か思い付いたリツコさん。
「ちょっと!ミサト、こっちにいらっしゃい!」
「な、なによ」
リツコさんはミサトさんを連れ、店の隅っこの方に行きました。
ケンスケ君はそれをボーっと見ています。
「なんなのよ、突然引っ張って!」
「良いアイディアが浮かんだわ」
「なに?」
「彼に払ってもらうのよ」
「・・・それはちょっちまずいんじゃない?」
「ふふふ・・・わたしに任せておきなさい」
ケンスケ君の前に戻ってくる2人。
リツコさんが話し出しました。
「相田君、あなたEVAのパイロットに為りたいそうね?」
「はい!その通りであります!」
「その希望・・・叶えてあげても良いわよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ただし!条件があるわ」
「この相田ケンスケ!何でもやらせて頂きます!」
「よく言ったわ・・・じゃ、財布出して」
「・・・はい?」
「二度は言いません!早く出しなさい!」
「は、はい!」
ケンスケ君は慌てて鞄から財布を取りだし、リツコさんに渡しました。
素早くそれを奪い取ると、リツコさんは満足そうな顔をして言いました。
「えらいわ、相田君・・・パイロットの件、期待していてね」
ケンスケ君は嬉しさのあまり、体が震えています。
「判りました!ありがとうございます!えっと・・・」
「私?私は・・・伊吹マヤよ」
「へ?何言ってるのよリツ・・・」
とんでもない事を言い出すリツコさんに、ミサトさんは驚いて何か言おうとしましたが、リツコさんの怖い顔を見て止めてしまいました。
「帰るわよミサト」
さっさと帰っていくリツコさん。
ミサトさんは、ケンスケ君に両手を合わせ、謝りながらリツコさんの後を追っていきました。
その2人を嬉しそうな顔をしながら見送るケンスケ君。
しかし・・・
「あの、お客様?」
「はい?」
「サンマ定食、750円に為りますが」
「・・・あっ!全財産持っていかれたんだ・・・」
こうして、ミサトさん達はNERVに帰っていき、ケンスケ君はサンマ定食の代金分、只働きをする事になりました。
「ふっふっふっ・・・これが終わればEVAのパイロットになれる・・・ふっふっふっ・・・」
ブツブツと呟きながら働かされているケンスケ君。
ですが、彼は残念ながらEVAのパイロットにはなれませんでした。
「そんな!どういう事なんですか!」
NERVの入口で人事担当官に、つかみ掛からんばかりの勢いで訪ねるケンスケ君。
「どういう事って言われても・・・君の事は誰からも聞いてないんだよ」
「そんな・・・」
「第一、伊吹弐尉にパイロットを決める権限なんて無いんだよ」
「・・・」
「そういう事だから・・・」
ケンスケ君は、呆然としたまま、そこを動く事が出来ませんでした。
しばらくして・・・
「・・・伊吹マヤめ・・・俺を騙したばかりか、有り金全部奪いやがって・・・ストーカーの恐ろしさを思い知らせてやる!」
その後、マヤちょむの下着が無くなる、盗撮写真がばら撒かれる、などの嫌がらせが続きました。
ちなみに、ケンスケ君は逆上している為、リツコさんとマヤちょむの区別さえ付けられないのでした。
マヤちょむ曰く
「なんで、私が狙われなくちゃならないんですか!もう、いやぁ!!!」