ACT4.良いレンズとは?

良いレンズとはいかなるものであろうか?ここでは単純にレンズその物の性能だけに焦点を合わせて、“良いレンズ”というものを判断する目安なるものを覚えていくとしよう。


ACT4-1.収差



レンズには“収差”なるものがあります。収差とはレンズと切っては切れない関係にありレンズの性能を決める重要な要素の一つにあたります。またレンズの歴史とも深く関わりが有り、レンズが発展したのもまた、この収差があったからといってもいいでしょう。では、その収差とは何かをひも解いて行きましょう。

まず収差には種類があります。その種類ごとに説明して行きましょう。

●球面収差
レンズの上部を通過する光を「上光線」、下部を通過する光を「下」光線、中央を通過する光を「主光線」という。球面収差とは、上光線と下光線が同じ量だけそれぞれが主光線に対し、反対の方向にずれることである。右側と左側の光線でもこれと同じように、ズレが起こる。球面収差のあるレンズで撮影すると下図の様に丸くぼける。これは画面中心から現れ、そのレンズの性格を決める重要な収差である。前述のソフトフォーカスレンズはこの球面収差を利用したもの。


●コマ収差
球面収差が反対の方向にずれるのに対し、コマ収差は同じ方向にずれる。主光線を頭にして上光線と下光線が同じ方向に尾を引いた形になる。コマ収差とはコーマ、流れ星のこと。つまり流れ星の様に画像が流れてしまう収差がコマ収差である。コマの向きには光軸から離れるものと、近づく物がある。コマ収差が大きいと、周辺画像が流れ、またボケがキレイではなくなる。これは絞りを絞り込むことによって改善される。


●非点収差
非点収差とは、下図の様に点が線に写る収差である。光束の中でレンズの縦断面を通過する光線と、横断面を通過する光線のピント位置が異なり、それぞれのピント位置で、線状の像となって写るためである。この非点収差は画面中心には現れることはなく、絞りを絞ることで多少はカバーされるが、収差量が小さくなることはない。


●像面湾曲
フィルム面は通常、平面であるため、平面被写体を撮影した場合、当然像も平面になると考えられる。しかし像面が平面でない場合もある。それが像面湾曲である。平面にピントを合わせた場合、画面の中心部でピントを合わせると、周辺部がぼけてしまい、周辺部に合わせると中心部がぼけてしまう。下図は凹面の湾曲だが逆の凸面の湾曲もある。


●歪曲収差
◆タル型歪曲
実際の画面中心からの距離が理想の画面中心からの距離に届かない状況になると像がタルのように歪み縮まってしまう。広角レンズにでやすい。

◆糸巻き型歪曲
実際の画面中心からの距離が理想の画面中心からの距離より遠くなる状況になると糸巻きのように伸びてしまう。望遠レンズにでやすい。


●色収差
◆軸上色収差
ガラスの屈折率が光の波長ごとに違うために起こる、色のにじみ。波長ごとにピントの位置が異なり、焦点距離に比例して大きくなる。望遠レンズの性能定価の大きな原因の一つ。縦の色収差ともいう。
◆倍率色収差
波長ごとに倍率が異なる収差で、画面に結像した像の大きさが異なってしまい、色のズレとなって現れる。画角に比例して大きくなる傾向があるので同じ色収差でも、広角レンズに現れやすい。横の色収差ともいう。


以上が収差の種類である。この収差は単独に発生することはなく、全ての収差が混ざり合って発生する。収差のない理想的な条件とは、
1.点は点として結像し、広がってはいけない。
2.平面は平面として結像し、フィルムが平らなら像面も平面でなくてはならない。
3.直線は直線として結像し、直線の像が曲がってはならない。

の3点が上げられる。しかし、この3点が全て満たされたレンズは存在しない。多くのレンズが球面で作られていること、自然界の波長の異なる光を利用すること、ガラスは波長により屈折率が異なることなどから必ず収差が生じてしまうのだ。多くの収差は何枚かのレンズを組み合わせることで補正しているが、完全には補正することは不可能に近い。ただ、この残存収差がレンズの個性となり、味を出していることも知っておきたい。


ACT4-2.周辺光量



フィルムの仕上がりを見たとき画面の周辺が濃く写っているのを見たことはないだろうか。これが周辺光量低下と言うもので、フィルムに届く光の量が低下したときに生じるものである。これには理由が2つある。

ひとつは画面周辺部に像をつくる光が画面中心部に像をつくる光より少ないためである。これはコサイン4乗則というもので、光軸から角度a分傾いて入ってくる光の量は、光軸に平行に入ってくる光の量に対して、コサイン角度aの4乗だけ低下するというものである。


2つめは、口径食というもので、レンズの絞りが開放のとき正面から見ると円形に見えるが、斜めから見ると楕円形に見えるというもの。絞りの前後で通るべき光の一部が遮られてしまうためこのような現象が起こる。口径食は絞りを絞ることによって解消することが出来る。




ACT4-3.内面反射



レンズに入ってくる光のうち、何パーセントかの光はレンズの表面や鏡銅の内部で反射してフィルムに到達するものがある。また、正規の光線がフィルムで反射し、その後レンズ表面で反射して再びフィルムに戻ってくる場合もある。これらの反射光は画面ムラを作る原因となり、悪影響を及ぼす。ある程度の形を持って結像したムラをゴーストと呼ぶ。またムラがひろがって白っぽくなったものをフレアという。
内面反射は強い光源がある場合起きやすい。光源が画角の外にある場合、フードをつけたりハレキリ(画角の外部からの光がレンズに入らないように画角の外で板や手をつかって光線を遮る行為)をすることで防ぐことが出来る。画角内に光源がある場合はこの内面反射を防ぐことは出来ない。
しかし、レンズには内面反射を防ぐため様々な加工が施されている。代表的な物がガラス自体に施すコーティングである。何層にも施されたコーティングで通常ガラス面の反射率が4パーセントあるものを1パーセント以下に押さえ込んでいる。またレンズの縁を黒く塗り(コバ塗り)レンズの周辺部での反射も防いでいる。鏡銅内の反射は反射する場所に黒いビロード状の物を貼り付けたり(植毛)切り欠きやつや消し塗装などで対応している。植毛のものは特に高価な反射対策なので、高級レンズに限られる。またフードにもこの鏡銅の反射対策と同様なものが施されている。


さて、ここまででおおかたのレンズの性能を決める要素は揃ったことになる。で、性能の良いレンズとは
わずかな収差で、周辺の落ち込みが少なく、内面反射の処理がしっかりしているレンズ。
と、いうことになる。